で、「ブレードランナー」の特殊メイクについてです。

文始めから変な話ですが、「ブレードランナー」にはこれといって目立った特殊メイクシーンというのはありません。
バイオレンスシーンに絡んだ地味な特殊メイクの使用が極一部にあるだけです。

じゃあ、何について書くんだ？と思われると思いますが(笑）

結果として完成した映画には結実しなかったのですが、初期の制作段階では「これぞ特殊メイク！」と言えるような映像のアイディアをリドリー・スコット監督が持っていた可能性が高いのです。

その理由なんですが、ソースはアメリカで定期発行されていた「シネファンタスティック」という老舗ＳＦ雑誌の１９８６年１月号(Volume15 Number5)の記事。映画「レジェンド 光と闇の伝説」(1985)について書かれたその記事の中に以下のような文章がありました。

↑「シネファンタスティック」１９８６年１月号(Volume15 Number5)２５ページから転載

 

この記事は「レジェンド」の特殊メイクについてのロブ・ボッティンへのインタビュー記事なんですが、映画「ハウリング」が終わってすぐの頃、リドリー・スコット監督が「ブレードランナー」の特殊メイク、特殊造型をロブ・ボッティンに依頼してきたと書かれています。

しかしその頃、ロブ・ボッティンはすでに「遊星からの物体Ｘ」(1982）という大作映画に関わっていて「ブレードランナー」の仕事は断わらざる得なかったみたいなんですね。

それでもリドリー・スコット監督はどうやらかなりロブ・ボッティンと一緒に仕事がしたかったようで、断られたと同時に「実はもうひとつ進行中の企画があって、それはレジェンドっていう題名のフェアリーテールの映画で・・」といって「遊星からの物体Ｘ」が終わった後に一緒に仕事をすることの確約を取ります。

その約束は守られ、リドリー・スコット監督は「ブレードランナー」終了後にロブ・ボッティンと組んで「レジェンド」を製作することになるのですが、それはまた別の話。

「レジェンド」についてはまたいつか書きますが、ここでは「ブレードランナー」です。

ロブ・ボッティン版「ブレードランナー」

ここからは僕の憶測ですが、このリドリー・スコット監督がロブ・ボッティンにコンタクトを取った時期は「遊星からの物体Ｘ」の製作準備段階である１９８１年あたりだと考えられます。

当時「ハウリング」のヒットによって特殊メイク技術がかなり注目されていて、その中心人物としてロブ・ボッティンは際立っていました。

そのロブ・ボッティンに仕事依頼したわけですからリドリー・スコット監督はなんらかのロブ・ボッティンにしか作れない特別な特殊メイクシーンを製作してもらおうと考えていたと思われます。

「ブレードランナー」のコンセプトデザインは大量に描かれていて多くは公開されているのですが、その多くは未来の風景やガジェットを描いたもので、特殊メイク関連のそれらしいデザイン画はまったく見たことがありません。

たぶんリドリー・スコット監督は「ブレードランナー」へのロブ・ボッティンの参加がダメになった瞬間に頭を切り替えて特殊メイク関連のシーンの構想はすべて取り止めたのだと思います。

「ブレードランナー」の前に「エイリアン」(1979)を監督しているリドリー・スコット監督ですから特殊メイクについては当時まだ珍しいものだったとしてもかなりの知識があったでしょう。

なのでもしロブ・ボッティンが「ブレードランナー」に参加していたらリドリー・スコット監督らしい面白くてセンスのある特殊メイク映像を作っていたと確信しています。

僕が思うにその多くはアンドロイド関連の特殊メイクになったと思います。皮膚の下にメカが見えるとか、「ターミネーター」のようなメカニカルパペットなど造型物が多数作られたでしょう。

多くはジェイムズ・キャメロン監督よりも数年早くメカニカル人間やアンドロイド関連の特殊メイク映像を根こそぎ映像化していたと思います。

ロブ・ボッティンのことですから「ブレードランナー」をやっていたら現在僕たちが良く知っている「ブレードランナー」とはかなり違う映画になっていたかもしれません。

「遊星からの物体Ｘ」でも映画そのもののルックを変えた人ですからね(笑）　まぁそれが良いか悪いかは別にしてロブ・ボッティンが参加していたらどうなったかを想像するのは楽しいことです。

ちょっと長くなってしまったので今回はここまでにします。「ブレードランナー」の特殊メイクについてはもうちょっとだけ書きます。（つづく）

 

[ゼライ直井のハリウッド映画・特殊メイク解説]もしも映画「ブレードランナー」の特殊メイクをロブ・ボッティンがやっていたら・・・その１

関連リンク

ブレードランナーBLADE RUNNER wikipedia(日本語版）